生産者のこえ

2014-07-11
まゆみ農園 真弓一保さん<第8話>

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好奇心と実行力で生み出す「儲かる農業」。

森田:ひとつ質問。真弓さんからみて、これから私のような農業アドバイザーと一緒にやっていく農業経営者って どういう人物が適していると思う?

真弓:何だろうね、好奇心かな(笑)、それがないと付き合えないと思う。俺、歴史の本が好きなんですよ。 幕末からの話とか、森田さんと飲んで話すと面白い。そういう話ができる農家って少ないでしょう。

森田:それは言えてるかも。

真弓:だから、そういうのがないと、こりこりに固まった農業してたら無理ね。

森田:僕の仕事は好奇心のある受け入れてくれる人に、いつ与えるかってことなんですよ。 月の満ち欠けや作物の生理と同じで、タイミング合せないとおじゃんになっちゃうんです(笑)。

眞弓:そうね。それは言えてる。

森田:この時やんなきゃとか、これ以上遅らせられないとかいうところでせめぎ合いをやってる。

眞弓:バトルやりますからね、「なんでこんげなことせんといかんとか!」って(笑)。

森田:でもそれがやっぱり、成長、前進かなって感じます。うちも大改革していこうと思ってるし。

眞弓:俺も思ったんですよ、変化していかないと農業も生き残れないって。ずっと同じことやっていたら、 絶対だめ。今の現状じゃ、うちもあと10年先はないかもしれん。だから少しずつでも変えながら 後継者に譲っていきたい。

森田:息子自身のスタッフを作るためにも自分で経験を積んで、自分なりのイメージを創りながら 仲間を作らなくてはいけないのよ。

眞弓:本当にそう。そういうのもあって大学やアメリカにやったんだけど(笑)。

森田:僕はね、農業の後継者たちを集めての勉強の場をつくれたらいいなあと思ってるんです。 今、農業大学校行ったって、農業ができない時代だから。

眞弓:あー、そら、本人次第。

森田:僕らも「儲かる農業」をテーマにして、農家さんと一緒に市場に仕掛けていこうと考えています。

眞弓:農協は共販だから、単に持って行くだけ。規格品でいいから、努力も工夫もしないでいい。

森田:そう、農家は甘えて頑張らない。

眞弓:自分で販売するんだから、それなりの努力しないとね、それがおもしろい所なんだよね。

森田:供給側も、組織化の時代ですね。真弓さんは人を雇う習慣を持ってたから、それで規模が大きく なったけど、もうアナログ(経験と勘)じゃダメな時代になって、デジタル(管理と機械化と数値化)に しないと追いつかない。

眞弓:わかる。わかるけど、できない(笑)。

森田:良い品物を安定供給する体制、将来を見据えて人生設計ができる農業、そこを僕は提案したい。 僕が持っているノウハウを忠実にやれば、大体3年位あればマスターできるんです。 真弓さんも工場作って4年になるんだよね。

眞弓:うん、4年目かな。

森田: 約3年で完成した時、真弓さんはもうプツンと切れる寸前まで働いていた。そしたら、息子が帰ってきた、 娘もいる、救われた〜って。そして、今、軌道に乗った。

眞弓:あと1年遅かったら、俺、もう倒れとるかもしれん(笑)。

森田:じゃ、最後に真弓さんの目標をきいて終わりましょう。

眞弓:目標はね、最初に森田さんと話した時に、日本一の人参作りたいって言ったわけ、本当に言ったんです。 覚えてないかもしれないけど。

森田:ちゃんと覚えてますよ。

眞弓:そしたら結構いい結果が出た。後は人参で20haと1億が最終目標。それから先は後継者たい。 うまくバトンタッチできるシステムを作る、それが願い。息子ともどもよろしくね、森田さん。

森田:こちらこそ。これからもバトルしながらよろしくお願いします(笑)。    


2014-07-11
まゆみ農園 真弓一保さん<第7話>

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問題は、根本的な解決でクリアする。

森田:人を雇って給料を払う農業をやろうと思うようになったのは、いつごろから?

真弓:自分は一人でやりよったから、人に助けてもらわないとできないでしょう。 最初から3、4人ぐらい雇ってました。

森田:じゃあ、農業で生きていこうという気持ちは、最初からあったんだ。

真弓:いや、なかったよ。だから嫁さんは、看護師。俺がダメでも何とかなると。なにせ、 ドン底からのスタートだったから(笑)。

森田:真弓さんの生き方は、すごい真剣。それがやっぱり重要ですよね。それと新しい発想を信頼して 受け入れるっていうのはすごく重要ですね。真弓さんと話していても農業の現場の話は本当に少し。 病気の話とか、対策をどうするとか。そういう話は、ほとんどないよね。

真弓:ああいうのは当たり前だもんね(笑)。そりゃ、もう、どうにか対処する(笑)。

森田:真弓さんの場合、そんなに病気も出てないでしょう。出てんの?

真弓:いや、そうでもないよ。今、掘っているところは黒葉枯れがちょっと出てるけど。 あとは、もうほとんど出てない。

森田:出てないよね。あるレベルまで土壌が完成されたら、そうなるんですよ。

真弓:あ、ちょっと小さい問題を言った方がいい?

森田:あははははは(笑)

眞弓:問題をあげるとすれば、春人参の、一番初めのものに空洞が出るんですよね。楕円形のやつは このように中がほとんどなってる。やっぱり新人を雇ってるから、見落としたんでしょう。クレームが来ちゃった。

森田:そういう現象が起こってどう対処するか、僕の場合は根本的に治す方法の提案をします。 薬かけて治すとかそんなんじゃなくって。それを真弓さんは確実に積み上げてるから、畑が順調になっていくんです。 この場合は気温が下がって、土の表面が凍って、苗が生長途中で根が切れちゃうんですね。根っこが切れるから次の 新しい根を出す、そして切れた根は養分を吸えないじから、それが空洞になる。避改善案としては、選別の強化です。

眞弓:見かけが楕円形のやつによく出るから、それを廃棄する。

森田:根が切れちゃうってことは、養分吸えないから空洞できるの当たり前なんだよ。でも食べると美味しいって クレームにも書いてある(笑)。

眞弓:そんな言うてますね(笑)。経験の長いおばちゃん達だったら、みんな分かっとるからね、 選別ができよったんだけど、今どんどん新しい人か働いているから。

森田:この時期はこういう問題が出ますって、選果場の壁に貼ったらいいよ。そしたら新人にも注意を促せる。 まあ逆にいえば、真弓さんの場合、そういう問題しか起こらなくなってるってことです。    


2014-07-11
まゆみ農園 真弓一保さん<第6話>

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どん底までいったから、見えること。

真弓:自分が成功したのは、どん底までいったからだと思うんや。親父がね、保証人で借金を作って、 俺が連帯保証よ。若い頃からその借金を払ったわけですよ、だからずっとマイナスだった。 そんな中でたまたま生協さんと巡りあって、なんとか立ち直ったんだけど。周りの人は 潰れると思ってたでしょう(笑。八方ふさがりだったから。今、TPPもあるし、お互い助け合うっていうけど、 最後は一人だというのを俺は実感してきたんです、若い頃から。自分の経営は、自分で確立して伸ばしていかんとダメ。

森田:いろんなことがあったんだね。

真弓:歴史があるんですよ(笑)。返済が終わって今、やっとこうなっている。人参農家が倉庫を作ってると、 周りの人は儲かっていると思っているけど、市場販売だけではなかなか。値段を決められる生協さんや 小売店さんとやっていかないと。皆、自分みたいになりたいと思っているみたい。

森田:真弓さんを見たら、人参は儲かるって思うよね。

真弓:外を見てるだけ。

森田:中はね、大変なことやってるよね。だって市場に出して価格を競ってもらうのではなく、 相手の注文に合わせて1袋に詰めて出して、付加価値をつけて売ってるしね。市場に出すような形で10kg箱だったら、 相場の値段になっちゃう。ところが、袋に詰めた途端、店で売る値段になるからこれが100円だよって言ったら、そうなる。 袋詰めは大変だからお店の人も喜ぶ上に、それが美味しいわけだから(笑)。

真弓:昔から生協さんに出しよったから、美味しい品物を作っていかなきゃいかんでしょう。でも市場で重視されるのは、見かけ。 でもうちは、美味しいのを作らないと苦情がくる(笑)。目標が全然違います。使っている肥料が違うし、全国探しても畑を耕すのに プラグを使ってやってるところはほとんどない。

森田:真弓さんは、天地返しするぐらいのことやるからね。

真弓:ただ、普通のプラグよりか3倍時間はかかる。常識では、この水田にプラグを入れること自体おかしいことだったし、 谷底に落ちるぐらいの決心がないと踏み出せなかった。だけど人参の栽培や生育がしやすいように環境を整えようという 気持ちがあったから。

森田:周りの人は、呆れたんじゃないですか。

真弓:変なことやってる、馬鹿じゃなかろうかって。最近プラグは少ないけど、緑肥を植えたりとかは、皆さんも真似していますね。

森田:今は、市場にも全然出してない、100%小売り。

真弓:余裕がなくて(笑)。

森田:安値の時でもそこそこの値段で売れるのは、すごいメリットです。

真弓:長い歴史があるんですよ!若い頃からその栽培方式で生協さんに出してきた歴史があって今があるんだから。 まぁ、ちょっとやそっとじゃできません。森田さんとの出会いも大きいよね。

森田:いえいえ、栽培は真弓さんのスタイルありき。私はそれで足りない所をこれはこういう風にやろうよとか、 これはこの資材でカバーしようよとかいって全体をサポートしていく。

真弓:俺の性格や方向性を理解した上でアドバイスをもらえるから助かってます。

森田:ま、ただ真弓さんのやりたいことに対して横から口出しするわけだから、どうしてもバトルみたいになってしまう。

真弓:そう、この人はやかましい(笑)。

森田:ただね、真弓さんのいいところは、我慢強さと忍耐力。それと人の話を受け入れる許容力がある。 日頃から自分で本を読んで研究しているから、そういった理解も早いんです。

真弓:森田さんは、農家と立場は違うんだけど、治療食を作る企業にもおられたから、基本的な事をわかっておられるんです。 それで僕らとは、発想がちょっと違う。俺たちはここしか見てないけど、ここだけじゃなくてこっちの道も あるかもしれないじゃないですか。大概のことは挑戦してみますよ、間違いかもしれないけど。

森田:これはこうだった、ああだった、それじゃこれをちょっとひねろうかといって、一つずつ流れを作って積み重ねられる人。 だから一代でここまでやってこられたんですね。    


2014-07-11
まゆみ農園 真弓一保さん<第5話>

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親から子へ。農業人のバトンをどう手渡すか。

森田:パソコンで売上げや計画を管理する体制まで持っていこうと話をして、今、色んなソフトを 調べてるところなんです。ただ真弓さん、パソコンと計算は駄目だから(笑)。

真弓:俺、できないもん(笑)。

森田:2人で経営者向きの研修に行った時、真弓さん、わぁわぁあくびしてて、こりゃ駄目だと思った(笑)

真弓:だって俺らは、おやじや学校や、農業関係の人から教わった事がすべてだから。 普通の農家で森田さんの言う太陰暦で栽培しようなんて人、普通いないよね。だけど柿も新月の時に 渋みが入るっていうし、生物は月と一緒のサイクルで成長するというのは何となくわかるわけ。満月の時は、 交通事故が多いとかね。データはないかもしれないけど、作物にもそれが確実にある。でも、暦通りに 資材を散布するのは難しい。

森田:要するに真弓さんはずっと一人、叩き上げで農業を広げてきた人だから、それを数値化する手続きが 面倒くさいんですよ。頭の中に地図があって作業の流れがあるから、自分で考えた方が早い。 ただし、今のままでは目標に手が届かない。課題としている改善点をちゃんとやれば、スコンと達成できるのに。

真弓:そういう話を聞くと、ムカッとくる(笑)。そんな簡単なことじゃないとこっちは思うわけ、 森田さんは言うだけですけど、こっちは実行しなきゃいけないだから。

森田:でも工場ができた時に必要な人数を計算から割り出したら、今その通りになってるじゃない。 真弓さんは経験でそこに行くけど、僕は数字で出しちゃう。

真弓:本当にそうだから、言いようがない。

森田:真弓さんも自分の頭の中を捨てないと新しい形にならないと分かってますよね。だから息子さんに シフトしようという相談を始めたんです。

真弓:まだまだ、農業始めて半年(笑)。息子はアメリカで農業を学ぶつもりだったらしいんだけど、 役に立たない。オランダに行った方が良かった(笑)。ただ息子は、なかなか自分の殻が破れないたちだったけど 積極的になってきたし、良かったなと思ってんの。

森田:跡継ぎが継ぎたくなるような、未来に夢がもてる農業をしていかないとね。

真弓:元をたどれば、俺は農業高校じゃなくて普通高校に行ったのがよかったのかな。熊本には、仲間で 百姓をやっている連中がいない(笑)。だから、人と発想が違うのかもしれない。農業高校に行ったら、 そういう仲間内で集まるじゃないですか。それがなかったんですね。

森田:だから僕の話が通じるんです。地元じゃ、真弓さんも異文化の方。

真弓:それはわからんけど、自分でやりたいと思う。そういうのが好きなんで。

森田:これからの農業をビジネスは、経営学や経理を勉強した上で、人を雇って栽培から流通まで構築する 発想を持たないといけないと思います。でも今の農協組織じゃ機能しないことがわかってきて、 どうしようかという時に、真弓さんと出会って扉が開いたっていうかな。真弓さんがコツコツと進化する姿を 横で眺めてると、あ、こういう感じで農業ビジネスにもっていけるんだなって、イメージができたんです。 それで新しい顧客も生まれました。スイートコーン農家さんがまさしくそうなんです。元は農業やってた人が 産業廃棄物業者になって、できる肥料を撒く畑が必要になって撒いたら耕せって話になって、 また、百姓始めたって人。

真弓:よそで働いたことがある人たちは、違った発想で百姓をとらえることができるし、 経営的にも従来のやり方じゃないものを考える。家族経営の農業は、親の方から子に伝えるから難しいんです。 親の方が経験も長いから、子どもは親の言いなりにならざるをえない。だから、親は、ある程度したら、 子どものやることに口出さない方がいいみたい。

森田:僕もいろんな農家さんと付き合って、後継者を任された若い人も何人か見てきて、 親が口出ししないほうがいいってことだけは、わかりました。

真弓:うまくいかないもん。親が口出ししたらね。    


2014-07-11
まゆみ農園 真弓一保さん<第4話>

mayumi03

 

「とどろき農法」をやって、気づいたこと。

森田:暦と資材を使った「とどろき農法」について、最初どう思いましたか?

真弓:土壌分析をした上で、とどろきの資材を使ってみたらもの凄くいい。 ただ散布量が半端じゃないし、労力もかかる。でもそれが今の結果に繋がっているわけですから。 こんなに美味しい人参ができるとは思わなかった。

森田:違いを感じたのは、いつですか?

真弓:普段、自分の作った人参しか食べないからわからないけど、友達にやるとものすごく喜ばれてね。 日持ちがするし、包丁を入れた時の切れ味が違うって。「真弓さんとこ人参はすごい! 孫がバリバリ食べる。 見てて惚れ惚れするくらい食う」って(笑)。そしたらオイシックスさんで特別金賞という評価をいただいたで、 そうかあーって。

森田:今は肥料設計を元に元肥を使って、ポイントポイントでとどろきの資材を使って予察して、 対策を打つという形でやってくれていますね。資材の量も少し減ってきたでしょう?

弓:人参だったら、10a当りに使うチッソ、リン酸、カリの量も決まっていて、 それで安定してるからほとんど変わらない。他の農薬は、ほとんど使ってない。今、周辺の農家さんから 畑を買い取ってくれという話が多くて。

森田:新しい畑に植える時は、まだ土壌が整備されていないから、多少は損害が出る。 今年は、そういう所をちゃんと整備したら歩留りが良くなるよ。畑が増えた分、出費も増えたかもしれないけど、 その頃から土壌環境が整って人参の品質も上がって、売上げが伸び始めた。

真弓:うちのエリアは畜産関係が多くて、初めから堆肥ありきの農地。真っ黒い土はできるんだけど ちょっと味が苦くなるんですよ。これあんまり言えないけど(笑)。

森田:それで、土壌を分析して正しい状態で美味しい野菜を作りましょうという所から始まりました。 実際、真弓さんが使う資材の量は、他の人に比べたら微々たるものなんですよ。他の人は何トンも入れてるけど、 この人は何百キロの世界だから。

真弓:まず土壌が変わってきたのと、半年間は土を休ませるんです。夏場は50cmくらい、冬場は70cmまで プラコで土壌を掘り返すから、根の張り方も違う。今年の人参は、ほんとにすごいですよ(笑)。

森田:大豊作だ、今年は(笑)。

真弓:森田さんのおかげ。ただ、栽培暦の通りになかなか散布できないんです。面積が広すぎて(笑)。

森田:その域にまだ達してない(笑)。露地だから大ざっぱなの。

真弓:言ってることはわかるんだよ、天気とにらめっこでしょ。こっちは集中的に1ヶ月で80カ所に植えるわけ。 そうすると、天気のいい時にばぁーっと植えてやる。暦をみると、種まきにいちばん悪い時がある、月の関係で。 そしたら、やっぱり悪いんですよ、これが見事に。占いじゃないけど、よく当たる(笑)。

森田:ある程度、暦に合わせて散布の計画を立てて、長期予報をみたら、今日は1日早くやろうとか 1日遅らした方がいいなっていう予測がたつようになるんですよ。真弓さんは無理だって言ってるけど、 逆にもっと緻密にすれば、面白いほどドンピシャとはまる、まだそこまで行ってないだけ。 面積のせいにしてる。

真弓:まあ、やってみる価値はあるけどさ(笑)。

森田:それが次の段階、計画農業への移行。