生産者のこえ
まゆみ農園 真弓一保さん<第6話>
どん底までいったから、見えること。
真弓:自分が成功したのは、どん底までいったからだと思うんや。親父がね、保証人で借金を作って、 俺が連帯保証よ。若い頃からその借金を払ったわけですよ、だからずっとマイナスだった。 そんな中でたまたま生協さんと巡りあって、なんとか立ち直ったんだけど。周りの人は 潰れると思ってたでしょう(笑。八方ふさがりだったから。今、TPPもあるし、お互い助け合うっていうけど、 最後は一人だというのを俺は実感してきたんです、若い頃から。自分の経営は、自分で確立して伸ばしていかんとダメ。
森田:いろんなことがあったんだね。
真弓:歴史があるんですよ(笑)。返済が終わって今、やっとこうなっている。人参農家が倉庫を作ってると、 周りの人は儲かっていると思っているけど、市場販売だけではなかなか。値段を決められる生協さんや 小売店さんとやっていかないと。皆、自分みたいになりたいと思っているみたい。
森田:真弓さんを見たら、人参は儲かるって思うよね。
真弓:外を見てるだけ。
森田:中はね、大変なことやってるよね。だって市場に出して価格を競ってもらうのではなく、 相手の注文に合わせて1袋に詰めて出して、付加価値をつけて売ってるしね。市場に出すような形で10kg箱だったら、 相場の値段になっちゃう。ところが、袋に詰めた途端、店で売る値段になるからこれが100円だよって言ったら、そうなる。 袋詰めは大変だからお店の人も喜ぶ上に、それが美味しいわけだから(笑)。
真弓:昔から生協さんに出しよったから、美味しい品物を作っていかなきゃいかんでしょう。でも市場で重視されるのは、見かけ。 でもうちは、美味しいのを作らないと苦情がくる(笑)。目標が全然違います。使っている肥料が違うし、全国探しても畑を耕すのに プラグを使ってやってるところはほとんどない。
森田:真弓さんは、天地返しするぐらいのことやるからね。
真弓:ただ、普通のプラグよりか3倍時間はかかる。常識では、この水田にプラグを入れること自体おかしいことだったし、 谷底に落ちるぐらいの決心がないと踏み出せなかった。だけど人参の栽培や生育がしやすいように環境を整えようという 気持ちがあったから。
森田:周りの人は、呆れたんじゃないですか。
真弓:変なことやってる、馬鹿じゃなかろうかって。最近プラグは少ないけど、緑肥を植えたりとかは、皆さんも真似していますね。
森田:今は、市場にも全然出してない、100%小売り。
真弓:余裕がなくて(笑)。
森田:安値の時でもそこそこの値段で売れるのは、すごいメリットです。
真弓:長い歴史があるんですよ!若い頃からその栽培方式で生協さんに出してきた歴史があって今があるんだから。 まぁ、ちょっとやそっとじゃできません。森田さんとの出会いも大きいよね。
森田:いえいえ、栽培は真弓さんのスタイルありき。私はそれで足りない所をこれはこういう風にやろうよとか、 これはこの資材でカバーしようよとかいって全体をサポートしていく。
真弓:俺の性格や方向性を理解した上でアドバイスをもらえるから助かってます。
森田:ま、ただ真弓さんのやりたいことに対して横から口出しするわけだから、どうしてもバトルみたいになってしまう。
真弓:そう、この人はやかましい(笑)。
森田:ただね、真弓さんのいいところは、我慢強さと忍耐力。それと人の話を受け入れる許容力がある。 日頃から自分で本を読んで研究しているから、そういった理解も早いんです。
真弓:森田さんは、農家と立場は違うんだけど、治療食を作る企業にもおられたから、基本的な事をわかっておられるんです。 それで僕らとは、発想がちょっと違う。俺たちはここしか見てないけど、ここだけじゃなくてこっちの道も あるかもしれないじゃないですか。大概のことは挑戦してみますよ、間違いかもしれないけど。
森田:これはこうだった、ああだった、それじゃこれをちょっとひねろうかといって、一つずつ流れを作って積み重ねられる人。 だから一代でここまでやってこられたんですね。